アフターコロナにおけるリーダーシップ ‐ニューノーマル(新常態)のリーダー像とは‐

特集

想定外の事態がもたらした深い衝撃

 誰がこんなことになると予想したであろうか。疫病によるパンデミックを指摘する声は以前から存在したが、社会にこれほどまで強い影響をもたらしたのは、まさに映画のディープ・インパクト(同名の競走馬ディープインパクトも衝撃的という意味では共通する)のような深い衝撃を我々にもたらした。
 世界の主要都市が都市封鎖(ロックダウン)を強行して経済活動が停止し、国際的な人の往来が大幅になくなり、グローバル・サプライチェーンが寸断されて物の流れが滞った。その結果、世界経済はかつての世界大恐慌なみの深刻な損害を被ることが確実視されている。当然のことながら我々の日常生活においても、状況が一変した。緊急事態宣言が発令されている間は、自粛要請に従う形で外出は大きく制限され、勤務先や学校に行くことはできず自宅待機する日々が続いた。今は、緊急事態宣言が解除され日常生活が戻りつつあるが、依然、新型コロナウイルスのワクチンは開発途上であり特効薬も当面は出てくることもなさそうなので、言うなればウイルスと共存して生きてゆかなければならない状態が続くということになる。
 想定外の危機に見舞われて、従来当たり前だと思っていた考え方や行動をある場合は全面的に、またある場合は部分的に見直さなければならない。新型コロナウイルスによるパンデミックを乗り切り、アフターコロナに訪れるニューノーマル(新常態)と呼ばれる新たな環境に我々はあらゆる場面で積極的に適応していかなければならない。そのためには、人々の意識の変化を促すリーダーシップが求められる。ちなみに、リーダーシップとは、組織やチームのまとめ役であるリーダーが目標達成に向けて構成員であるフォロワーの前向きな意識の変化を促す行為と定義される。本来ならば、あらゆる場面でのリーダーシップについて論じる必要があるのだが、今回は企業経営におけるアフターコロナのニューノーマルにおいて求められるリーダーシップについて論じる。

新型コロナウイルスによるパンデミックがもたらした働き方の変化

 今後の新たな働き方として注目されてきたが、今一つ日本の企業経営に浸透してこなかったのがテレワークである(ちなみにテレワークとは、日本テレワーク協会の定義によると「ICT(情報通信技術)を活用した場所や時間にとらわれない柔軟な働き方」とされている)。そのテレワークが、新型コロナウイルスによるパンデミックがきっかけとなって一気に普及した。新型コロナウイルスの蔓延が終息した後にテレワークがどの程度まで浸透しているのかは少々未来の話であるが、テレワークが働き方のニューノーマルにおいて注目されているのは間違いなさそうだ。
 令和2年(2020年)5月27日の日本経済新聞朝刊の1面に、日立製作所が新型コロナウイルス終息後も国内で働く社員の7割にあたる約2万3千人を対象に在宅勤務を前提とした職務遂行の成果に基づく人事制度に見直すと報道された。これはジョブ型雇用と呼ばれ、職務内容を明確にしたうえで職務定義書(ジョブディスクリプション)を示し、労働時間ではなく成果によって評価する欧米型の雇用形態である。続く令和2年(2020年)6月8日の日本経済新聞朝刊によると、この動きは大企業を中心に広がりを見せており資生堂や富士通そしてNTTグループが在宅勤務を前提としたジョブ型雇用を導入する方針を打ち出し、これまでの労務管理の在り方が変化するだろうと報道された。
 株式会社パーソル総合研究所が実施した「新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」によると、緊急事態宣言後の正社員のテレワーク実施率は全国平均で27.9%、3月半ばの時点では13.2%であったので1か月で2倍以上となっている。テレワークは伸びてきてはいるが、現段階では全体の3割弱である。テレワーク実施者のうち、今後もテレワークを実施していきたいと回答したのは、53.2%、とりわけ、20代と30代では6割を超えていた。テレワークの継続に関して公益財団法人日本生産性本部が実施した「新型コロナウイルスの感染拡大が働く人の意識に及ぼす調査」のレポートによると、テレワークによって仕事の効率性を実感したのは3割強にとどまり期待通りの成果が上がっていないことが報告されている。効率性が上がらない理由としては、自宅の通信環境や物的環境が不十分であることや、職場に行かないと入手できない資料があるといった入手できる情報に制約があることが挙げられている。その一方で、テレワークの満足に関しては程度の差こそあれ満足しているのは6割弱にのぼり、継続の意思については6割を超える結果となっている。満足および継続の意思の理由としては、通勤ラッシュからの解放や感染リスクの軽減が挙げられている。ただし、エッセンシャルワーカー(生活必須職従事者)のような現場に出向いて仕事をしなければならない職種においては、現段階において様々な制約要因がありテレワークを実施することは難しい。ゆえにテレワークは、主にホワイトカラー職種において実施されている。
 一連の調査結果からは、テレワークの実施については課題が多く実施できる範囲も限られている。その一方で、テレワーク自体については肯定的な評価をする人が多いということが明らかになった。ここから読み取れることは、テレワークは現段階で既存の働き方を一変させるものではないが、1つの働き方として定着していく可能性を有するということである。

アフターコロナで求められるリーダーシップとは

 企業組織におけるリーダーシップは、アフターコロナにおいて大きな転換を迫られる。これまでのリーダーシップが想定していたのは、直接対面型のコミュニケーションによるものであった。だが、アフターコロナにおいてはWebを介した間接対面型のコミュニケーションによるものにシフトしていく。
 間接対面型のコミュニケーションに拠るリーダーシップの登場は、リーダーシップの発揮を複雑化させる。なぜなら、全てのフォロワーがテレワークになることは現状不可能であるので、リーダーは直接対面型コミュニケーションと間接対面型コミュニケーションの2つのコミュニケーションの様式に基づいたリーダーシップを使いこなしていかなくてはならないからである。
 テレワークにおける職務の遂行に関しては個人単位で行われるゆえに、役割を遂行する過程をリーダーがコントロールすることはできずフォロワーの自律性に依存することになる。フォロワーにとっては自律性が得られる一方で、他者と直接的に協働する機会は限られ孤立して業務を遂行することになるので、多かれ少なかれ疎外感を感じる可能性がある。つまり、アフターコロナで求められる新たなリーダーシップは、職務遂行における個人の自律性を最大限に活かすとともに、それに伴う疎外感を最小限に抑えるということが求められるのである。具体的に何が求められるのかと言えば、まずリーダーが個々のフォロワーの特性や置かれた環境、たとえば、仕事に対する考え方やパーソナリティ、あるいは家庭の事情などをフォロワーが容認する範囲で情報共有する必要がある。リーダーとフォロワーが情報共有した上で、個々のフォロワーの事情に配慮しつつ職務の遂行を支援するリーダーシップが求められるのである。
 ただし、テレワークと出社型の間で勤務時間の自由度の差が生じることによって、融通が利きにくい出社型のフォロワーが不満を持つことによるフォロワー間の分断につながることは避けなければならない。そうならないためには、リーダーとフォロワーの人間関係を相互信頼に基づいた成熟したものに発展させていく必要がある。成熟したリーダーとフォロワーの関係を構築するには、フォロワーがリーダーの指示に従う代わりに報酬を得るというギブアンドテイクの関係を超えたものが求められる。責任感と当事者意識を有したパートナーとしてのフォロワーと、彼 / 彼女らを支援するリーダーという関係を目指さなければならない。フォロワーを引っ張っていくリーダーというよりも、フォロワーを巻き込んで背中を押すリーダーがアフターコロナで求められるリーダー像であり、それを目指すべくリーダーが意識を変えることが重要である。

小野 善生氏

滋賀大学経済学部教授
1974年京都府生まれ。1997年滋賀大学経済学部卒業。2003年神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。2006年より滋賀大学経済学部助教授、2007年に准教授を経て、2016年より現職。専門は組織論、リーダーシップ論、組織行動論、経営管理論、経営学。
著書に『リーダーシップ』、『最強の「リーダーシップ理論」集中講義』、『フォロワーが語るリーダーシップ』、『リーダーシップ入門講座』などがある。